推薦のことば

 「原爆の図」や「沖縄戦の図」などの作品で広く国内外でその名を知られた故丸木位里、丸木俊ご夫妻は、
その芸術作品を通していかなる戦争にも反対して世界の平和の創出に努められ、私たちにとって亀鑑とすべき立派な先達です。
 丸木ご夫妻の平和な社会への希求の強さと、その実現を図るための日常的な芸術活動は、世界の多くの人たちの称賛を浴び、
つとにノーベル平和賞の受賞者候補に擬せられたほどであります。
 丸木ご夫妻は常々、太平洋戦争で戦場と化した沖縄に深い関心を抱かれ、生前ご両人は連れ立って沖縄を訪問されました。
お二人の有名な「沖縄戦の図」は、現在その移設問題をめぐって国内外の人々の注目の的になっている宜野湾市の普天間飛行場に
隣接する佐喜眞美術館に飾られていて、その戦場場面のあまりのリアルさに見る人をして慄然たらしめると共に、平和創出への希求を
いやがうえにも掻き立てています。
 生前、何年か前にご夫妻は、本島南部の佐敷町の、佐敷教会の平良修牧師のご案内で、ひょっこり拙宅を訪ねて来られたことがありました。
いろいろとお話を伺っているとき、ご主人の位里先生がさり気なく絵筆をとられ、私の肖像画を描いて下さいました。ほぼスケッチが終わると、
今度はご夫人の俊先生が替わりに手を入れられました。それを二、三回繰り返して絵は見事に仕上がりました。私はそれを拝受して、
今も我が家の家宝として大事にしています。お二人の仲睦まじいお仕事ぶりはじつに微笑ましく、とても親しみが持てました。
私にとって両先生とは初対面でしたが、お二人ともユーモアに富み、何年も前からお付き合いさせていただいているような気さえしました。
 両先生は、先に次代を担う子供たちに命の尊さ、平和の大事さを理解してもらうために
『おきなわ 島のこえーヌチドゥタカラ いのちこそたから』という素晴らしい絵本を刊行されました。
この度その絵本が英訳され、広く世界の子供たちに読んでもらえることになりました。
多くの方々がその快挙に心から賛同されると思いますが、私も、英訳本の発刊を歓迎し、満腔の拍手を送る者の一人です。
 丸木ご夫妻の易しく分かりやすい文章と、お二人が力を合わせて描かれた一枚一枚のリアルな戦場絵は、必ずや世界中の子供たちの心に訴え、
平和への志向を高めるにちがいありません。今は地下に眠られるご夫妻も、ご労作が英訳されて世に出ることをさぞかしお喜びになられることでしょう。
願わくば一人でも多くの子供さんたちがこの絵本を手に取り、平和への熱い思いをいちだんと強くして、
それぞれの立場で為し得ることを実践されるよう祈念致して、
私の心からの推薦の言葉にさせて頂きます。
  
2011年1月
大田平和総合研究所主宰  大 田 昌 秀